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無細胞タンパク質合成を
用いる安定同位体標識

木川隆則

木川隆則
理化学研究所
生命システム研究センター
チームリーダー

近年、無細胞タンパク質合成系(Cell-Free protein synthesis system、以下CF)の技術の進展により、様々な真核生物および原核生物のタンパク質を大量に生産することが可能となった。大腸菌、ウサギおよびコムギ胚芽細胞抽出液をCF反応液として用いる従来の系に加え、真核細胞抽出液を用いる新しい系が開発されるなど、多様な発現環境でタンパク質を得ることが可能となっている。一方、今世紀に入り、ヒトゲノムの解析が完了した結果、その機能としてのタンパク質の網羅的解析に科学的興味が注がれ、膨大な数のタンパク質試料を効率的かつ迅速に調製する必要性が高まった。

CFは、自動化やハイ・スループット発現に容易に適用できるため、そのような必要性に応える最適な技術として、構造ゲノミクスおよびプロテオミクス・プロジェクトで利用され(Yokoyamaら、2003)、最も有用なタンパク質発現方法のひとつとして広く認められるようになった。現在、理化学研究所の構造生物学研究では、大腸菌細胞抽出液に基づく転写-翻訳共役CFが標準的なタンパク質発現方法の一つとなっており、タンパク質およびタンパク質ドメインの1,300を超えるNMR構造と250を超えるX線結晶解析構造が決定されている。

当初、CFではタンパク質を大量生産できないという問題があった。しかしこれは、CFの技術革新である連続交換法の開発(Spirinら、1988)や反応条件の最適化(Yabukiら、1998)等により解決された。

現在では、大腸菌細胞抽出液をCF反応液として用いた連続交換法によって容易にタンパク質を大量生産することが可能となっている。連続交換法すなわち透析式CFは、小量生産から大量生産まで最も普及している反応様式である(Kigawaら、2007)。透析膜内部のC F 反応液(内液)を、アミノ酸類やヌクレオチド三リン酸などの転写および翻訳の基質を含む外部溶液(外液)に対して透析する。反応時間は数時間から一晩程度であり、CATタンパク質の実施例では、10時間反応で反応混合物1mLあたりタンパク質7mgを超える生産となった(Kigawaら、2007)。1mL内液/10mL外液から9mL内液/90mL外液までの反応スケールにおいて、反応液量に対する透析膜表面積の比率を最適化することで、反応液当たりの生産性を同等に維持できる。CFでは、PCRにより増幅された直鎖状DNA断片を鋳型としてタンパク質を生産できる。


そのため、遺伝子クローニングが不要であることが大きなメリットの一つとなっている。理化学研究所は、大腸菌細胞の培養温度をやや低い範囲(20 〜34℃)にする細胞抽出液調製プロトコールにより、細胞抽出液中の直鎖状DNA分解活性を大幅に抑制することを見出し、それにより、透析系を用いる大スケールの生産であっても、PCR増幅鋳型を用いて十分な生産性を実現することに成功した(Sekiら、2008)。

前述のように、C Fは自動化やハイ・スループット発現に容易に適用できる。そのメリットを最大限に活用するため、全自動CF装置が様々な機関で開発されている。理化学研究所では、 1)タンパク質の発現確認を768試料同時に9 時間以内で実施する装置(鋳型作成のためのPCR反応(Yabukiら、2007)、バッチ式CF反応(30μ L)、

GFP融合産物の蛍光測定(Kigawaら、2007)、等の機能を有する)、 2)タンパク質を96種類大量に半日で調製する装置(透析式CF(内液1mL)、アフィニティ精製、等の機能を有する(Aokiら、2009))、を開発した。約20,000種類のタンパク質試料を、PCR増幅直鎖状DNA鋳型を用いる透析法CFにより調製し、それらのNMRスペクトルの測定に成功した(Kigawaら、2007)。

タンパク質の安定同位体(stable isotope、以下SI)標識は、CF反応液中の対象アミノ酸をSI標識したものと置き換えることにより行う。一般にCFでは、効率的な翻訳のためにカリウムイオンが必要であり、通常、カリウムイオン源としてL-グルタミン酸カリウムが使用される(Kigawaら、1995)

しかし、高濃度のSI標識されていないL-グルタミン酸カリウムの存在はSI標識率を著しく低下させることとなる。そこで、高いSI標識率を維持したうえ、生産性の高いCFを実現するために、カリウムイオン源としてD-グルタミン酸カリウムを用いるCF(D-Glu系)が開発された(Matsudaら、2007)。理化学研究所では、このD-Glu系を用いて、ヒト、マウスおよびシロイヌナズナなどの高等真核生物由来の1,000を超える13C/15N-均一標識タンパク質が調製されている。これらのタンパク質のNMRスペクトルは、高いSI標識率で、これまでにない質を有していた。また、NMR分光法における分子サイズの限界を広げることが期待される立体整列同位体標識(Stereo-Array Isotope Labeling、SAIL)法(Kainoshoら、2006)は、CFによる「均一」SI標識の応用のひとつとして注目される。


通常、均一SI標識には、単離されたSI標識アミノ酸1〜20種類が用いられるが、そのコストは高額となることが多い(K i g a w a ら、2010)。このコストを低減するためには、それらを用いる代わりに、SI標識藻類由来タンパク質バイオマスの酸加水分解物から生産される、より安価なSI標識藻類加水分解アミノ酸混合物(algal amino acid mixture、AAAM)を使用することが推奨される。しかしながら、加水分解アミノ酸混合物(アミノ酸16種類)には含まれておらず、はるかに高価なSI標識アスパラギン、グルタミン、システインおよびトリプトファンが必要となる(Kigawaら、1999)。そのため、CFを用いるSI標識のコストはこの4つの酸分解アミノ酸に大きく依存する。そこで、内在性代謝による変換をうまく利用することにより、CF反応の際にSI 標識AAAM、

SI標識インドールおよび硫化ナトリウムなどの安価な原材料からこれらの4つのアミノ酸を生成する(Yokoyamaら、2010)ことにより、単離されたSI標識アミノ酸20種類を使用する従来の場合と比べて、コストが大幅に削減された。一般に、均一重水素(2H)標識は、より分子量の大きなタンパク質の解析に利用されている。生細胞を用いた従来のタンパク質生産では困難な均一重水素標識が、均一重水素化標識アミノ酸を用いるCFにより実現された(Etezady-Esfarjaniら、 2007)。ただし、反応液に軽水(1H2O)を用いる従来のCFでは、特定のアミノ酸のα -位およびβ -位において軽水素(1H)による重水素希釈が起こるために、大腸菌細胞抽出液をはじめとするすべての試薬を、重水(2H2O)を用いて調製する必要があった。一方、アミノ酸における軽水素との交換は、ピリドキサール5'-リン酸(PLP)要求性酵素により触媒されることが報告されている。

これに着目し、PLP要求性酵素の阻害剤を加えることにより、均一重水素標識アミノ酸を用いて、反応溶液に軽水を用いたCFによって、均一重水素標識タンパク質を調製、95atom%以上の重水素標識率を達成した(Yokoyamaら、2011)。

アミノ酸選択的SI標識は、NMR 低感度およびスペクトル重複という問題を解決するために広く用いられており、さらに、高分子量タンパク質とそれらの複合体を解析するために不可欠なものとなっている。一般のCFでは、アスパラギン酸、アスパラギン、セリンおよびアラニンなどの特定のアミノ酸を除くほとんどすべての種類のアミノ酸の選択的標識を可能にするが、わずかな同位体スクランブリングおよび希釈を伴う(Kigawaら、1995)。


CFの内在性代謝反応を、それらの化学阻害剤であるアミノオキシ酢酸、D-リンゴ酸、L-メチオニンスルホキシイミン、S-メチル-L-システインスルホキシイミン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、および5-ジアゾ-4-オキソ-L-ノルバリンを用いて抑制することで、正確かつ完全なアミノ酸選択的標識が実現された(Yokoyamaら、2011)。SI標識の正確さと完全性が、新しく開発されたSI標識戦略にとって有用であるため、この、スクランブリングおよび標識の希釈の起こらないSI標識技術は、大きく複雑な生体系のNMR解析に大きく貢献するであろう。アミノ酸代謝の抑制もまた標識効率を高める一因となり、SI標識のコスト低減に貢献することが期待される。イソロイシン、ロイシンおよびバリン残基のメチル基の選択的プロトン化もまた、NMR分光法における分子量限界を高めた(TugarinovおよびKay、2003)。

近年我々は、CFにより調製された、メチル基を選択的にプロトン化した試料を用いて、約400残基のタンパク質の構造決定に成功している。

部位特異的SI標識は、関心部位のある特定のアミノ酸残基の観測およびシグナル帰属を大幅に簡素化するため、巨大タンパク質の局所構造およびタンパク質間相互作用の解析等において有用である。アンバー(コドン UAG)サプレッションを用いるCFにより、非天然アミノ酸の部位特異的取り込みが行われた(Norenら、1989)。我々は、ほぼ同じ方法を用いることにより、SI標識チロシンのRasタンパク質への部位特異的(Tyr32)導入とその1H-15N HSQCスペクトルの測定に成功した(Yabukiら、1998)。チロシン以外のSI標識アミノ酸の部位特異的な取り込みも、

アミノアシル化されたサプレッサーtRNAの利用により可能である。

現在、CFは、従来のin vivo生産の主要な制限を克服するための、構造解析用膜タンパク質の生産に適切な方法として評価されている(Shimonoら、2009、 Sobhanifarら、2010、Nguyenら、2010)。毒性およびタンパク質分解の回避などのCFの一般的な利点に加え、膜タンパク質は、機能的フォールディングのために共翻訳的に膜内に直接組み入れることが可能である。

タンパク質の高度化されたSI標識を実現するために、CFにはまだ変更および改良の余地がある。新たなNMR法と組み合わせて、生体分子NMRの可能性をさらに広げることが期待される。

* 本文は 「Biomolecular NMR」カタログ(大陽日酸 2015) への寄稿文を転載してます。



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